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I'm wrapped aroud your love

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このヤシカフレックスは、暗い押し入れの奥で長い間眠っていた。
父が動けなくなった時からずっと。

誰も手入れすることがなかったカメラの痛みはひどかった。
ストラップはちぎれ、張ってあった皮は半分以上割れてはがれ落ち、
湿気でカビは内部にまで及んでいて、
ファインダーをのぞくとあちこちに黒いシミがあるみたいだった。

父が家を離れて私がこのカメラを見つけた時は、もう使えないだろうと思った。
試し撮りしたらまだ撮れる。
でも、フィルムに慣れていない私は、やがて触らなくなった。

この家にやって来たabuは、カメラを分解し、丁寧に、慎重に、汚れを落とした。
割れた皮を全部はがし、白い皮をなめして、型紙を作って、全面に貼った。
ヤシカフレックスは生まれ変わった。

ひどい父親だった。
でも、たったひとりの父親だ。
まるで、施設のベッドで動けなくなった父みたいに、
このカメラは朽ちていくはずだった。
けれど、abuによって新しい命を得た。
そして、abuの手の中でしょっちゅうシャッター音を鳴らしている。
どんなにかうれしいことだろう、また大切に使ってもらえるなんて。

父は自力では何もできなくなってしまった。
いつか来る悲しい日を考えないと言ったら嘘になる。
でも、父がこよなく愛したこのカメラは甦った。
abuの手で。

写真が、カメラが、大好きだった父。

いつしか、誰にすすめられることも、教わることもなく、
カメラを手にして写真にのめり込んでいった私。
そして、写真を撮るabuに出逢った。

写真がつなぐ縁。

5歳にもならない幼い私が昼寝をしているモノクロの写真がアルバムに残っている。
このヤシカフレックスで父が撮った写真だ。

今はabuがこのカメラで私を撮る。

カメラが、命だとしたら、愛だとしたら、
父からabuへ、それが巡り、受け継がれていった。
まるで、父がabuにこう言った気がした。

「娘を頼んだ」
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by emiya_xxx | 2010-05-04 21:56 | こころ